新スーパー戦隊、ピンクが男性なぜ?東映P「ステレオタイプな人物造形をしないというメッセージ」

「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」第2話戦闘シーン

3月6日からスタートしたスーパー戦隊シリーズ最新作「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」(毎週日曜朝9:30~放送中、テレビ朝日系)。SNSでは放送開始早々「情報量が多い」「カオスすぎる」「そもそも暴太郎(あばたろう)って何?」など、想像を超えた展開を面白がるコメントで大盛り上がり。「これでお前とも縁ができた!」という主人公のセリフも、早くもネットミーム化しつつある。まさに「いまだかつて見たことのないヒーロー」というコンセプトが、視聴者へ様々な角度から刺さっているようだ。また、放送前から話題になっていたポイントのひとつは「ピンクが初の男性戦士」であること。46作目のスーパー戦隊が目指す新たな地平について、数多くのスーパー戦隊や仮面ライダーシリーズを手掛けてきた、東映・白倉伸一郎プロデューサーに聞いた。【写真】こんなスーパー戦隊見たことない!凸凹ルックスの集合ショット■インパクト不足を解消するために、アバターという概念を利用本作はスーパー戦隊シリーズ第46作目。モチーフは「桃太郎」で、ドンモモタロウ(レッド)、サルブラザー(ブルー)、イヌブラザー(ブラック)、キジブラザー(ピンク)、オニシスター(イエロー)が、人間の欲望から生まれるモンスター“ヒトツ鬼(キ)”と、ヒトツ鬼を人間ごと消去しようとする謎の組織“脳人(ノート)”に立ち向かう物語だ。「前シリーズの『機界戦隊ゼンカイジャー』は45作記念ということで、ある種スーパー戦隊シリーズの集大成、究極の形を模索する1年間でした。そこで一区切りがついたので、次のステップに進もうとしているのが本作」(白倉P/以下同)まず目をつけた最初のポイントが“変身”。例えば仮面ライダーでは、変身シーンが大きな見どころの一つ。実際、仮面ライダーを演じた俳優がバラエティ番組などで変身シーンを求められることはよくあるが、スーパー戦隊ではめったに見られない。“変身”が軽んじられているのではないかという懸念があった。「正直、45作もやるとヒーロースーツの区別がつかなくなってくる。そこで(スーパー戦隊初代の)『秘密戦隊ゴレンジャー』を改めて見返してみると、シルエットに違いがある。個性の違う5人が集まった、集団としての面白さを、どう変身で表現するかに回帰しようと思いました。また、そもそもスーパー戦隊は、素面(変身前)5人が揃ってから変身するのが一般的。変身する前からそこにいるわけで、これでは5人のヒーローが揃った瞬間のインパクトが薄い。これらを一挙に解決できないかという模索の中で“アバター”という概念を取り入れました」本作でまず工夫されたのは、ヒーローの見た目だ。ドンブラザーズはアバターデータ=“アバタロウ”をロードすることで変身する。大ヒット映画「アバター」や「レディ・プレイヤー1」「サマーウォーズ」など、アバターを扱った作品は多い。ネットゲームで自身のアバターを作り、プレイしている人も少なくないだろう。アバターの特徴は顔も体型も、性別さえも自由に決められること。それゆえ本作ではキジブラザーが身長220cm、イヌブラザーは1mと、通常の人間サイズではなくなっている。結果、見たこともない5人凸凹のルックスに。タイトルでも「暴太郎(“アバタ”ロウ)」という造語を生み出した。「スーパー戦隊はスーツアクターのアクションが売りでしたが、それが制約にもなっていた。変身後の姿にCGを取り入れることで、企画としての自由度を上げました」■色によるキャラ造形の固定観念から解放され、新たなドラマを次に考えたのは5人が揃うときのインパクト。ドンブラザーズの面々は変身前、お互いの顔や居場所、素性を知らずに過ごしており、敵が現れると自身をアバターに変えられ、瞬間移動で戦場に放り出される。戦場では共に戦うが、闘いが終わればまた元の場所に戻り、しばらくは変身前の姿で5人が揃わない。ゆえに、いつか生身で一同に介した際、それがカタルシスとなる。この設定は、ネットゲームやSNSでは知り合いだが、リアルでは遠く離れた場所にいてお互いの素性もよく知らないというデジタル社会の現代と酷似している。このアバターの概念で、ドンブラザーズも過去の戦隊に変身ができる。「象徴的なのは、ピンクが今回は男性戦士なんですね。その彼が例えば過去のゴーカイピンクにチェンジすると、ゴーカイピンクは女性戦士なので、心は男性だけど、姿かたちは女性戦士という変身になるんです」いかにもジェンダーレス時代らしい設定だが、白倉Pは「多様性とか御大層なことを考えているわけではない」と言う。「戦隊はステレオタイプのイメージが強すぎる。レッドは熱血、ブルーはクールなど、色が決まった途端に人物造形が固定されてしまう。それを超えないと同じドラマの繰り返しになる気がするんです。一番わかりやすいのはピンク=女性戦士。これを男性に変え、“この番組はステレオタイプな人物造形をしていませんよ”とメッセージを発しています」「女性戦士をピンクにすると、いかにもな紅一点、記号的な『女性』になってしまう。そうしないで、ひとりの人間として描きたい。同時に、昔のイエローは男性戦士でしたが、女性戦士にも開放されて女性も色の選択ができるようになった。それに対して男性はピンクが選べないという固定観念は多少なりともある。男性がピンクを選んでもいいじゃないか。男性にも色の開放をという思いもあります」実際、ピンクはすでに男性に開放されている。たとえばジャニーズのグループでも、メンバーカラーがピンクであるタレントは亀梨和也、藤ヶ谷太輔など数多く存在する。「10年以上前、『仮面ライダーディケイド』(2009年)でもカラーにピンクを入れるかどうかで議論になりました。しかしその会議中、ふと横を見ると、次のプロデューサーがしっかりピンクのシャツを(笑)。男性もすでに普通にピンクを着ているわと。世の中は10年も前からそうなっていたのに、スーパー戦隊だけ遅れていたのかもしれません」■与えられた型に、無理して自分をはめこんでいく子にはなってほしくないただし、白倉Pは価値観を子どもたちに押し付けたいわけではない。「小さいお子さんは、大人のいうことを見聞きしながら、自らの性別を意識していきます。その自然な成長をあまりぐちゃぐちゃにしてはいけない。『女性はピンク』という固定観念を覆すのは現代の一手段であり、着る服や与えられるおもちゃから男の子/女の子というジェンダーロールに縛られるのではなく、“自分はどういう人間なのか”を、自分で見つけて選んでいくことが自然な形だと思うんです。与えられた型に自分を無理してはめ込むのではなく、自分らしくのびのびと育ってほしい」これを実現するためにメインライターに抜擢されたのが「鳥人戦隊ジェットマン」(1991年)、「仮面ライダーアギト」(2001年)、「仮面ライダーキバ」(2008年)などを手掛けた脚本家・井上敏樹だ。善悪の二元論に囚われず、滅びの美学を持ち、キャッチーな台詞、独特のキャラ造形、子ども向けであっても容赦しない物語展開など、業界でも“暴れん坊”で通っている。「今回のモチーフは『桃太郎』です。キャラクター同士の関係性がわかりやすいということで選ばれたモチーフですが、かといって桃太郎の意見に、お供たちがよしわかったと賛同するとは限らない。人間ですから。キャラクターをそれぞれ魅力的な人間として描いてくださるのが井上先生。また既成概念を崩したくてウズウズされているタイプですので、5人揃って一つの心、スーパー戦隊ってこういうものだよということに縛られない。戦隊という集団を描く上で、全体主義的な感覚をお子さんたちに植え付けてはいけないと思っています。いかなるときでも自由や多様性が最も大事。そのためにも井上先生にはどんどん暴れてもらいたいですね(笑)」ちなみに前作『~ゼンカイジャー』主人公の五色田介人(駒木根葵汰)も登場するが、世界観はリンクしていない。彼はどんな役割を担うのか、またなぜ仲間の中に、「桃太郎」では本来敵であるはずのオニがいるのか、これらも物語の鍵となるだろう。「本作は大人の方が面白いと思える作品かもしれません。シリーズ46作目、新たなスタートラインに立ったスーパー戦隊をぜひ見てください。スーパー戦隊の見方がガラッと変わるはずですよ」取材・文/衣輪晋一(メディア研究家)

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