ソニーの「嗅覚」事業を切り拓いたAROMASTICは、視覚・聴覚だけの「VR」を変えるか ソニー「AROMASTIC」開発インタビュー(後編)|ビジネス+IT

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    ソニーの「嗅覚」事業を切り拓いたAROMASTICは、視覚・聴覚だけの「VR」を変えるか

    ソニー「AROMASTIC」開発インタビュー(後編)

    ソニーが新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」(以下、SAP)から生まれた新プロジェクトパーソナルアロマディフューザー「AROMASTIC(アロマスティック)」がヒットの兆しを見せている。その香りカートリッジには5種類の天然精油が入っており、瞬時に香りを切り替えられることが大きな特徴だ。従来までなかった、新しい香りビジネスの創出に向けた挑戦について、引き続きソニー 新規事業創出部 OE事業室 統括課長 博士(理学)藤田 修二氏に話を聞いた。

    聞き手・構成:編集部 中島正頼、執筆:井上猛雄

    聞き手・構成:編集部 中島正頼、執筆:井上猛雄

    前編はこちら<目次>
    1. ソニー以外はつくれない、光ディスクで培った技術を応用
    2. 普及の大きな課題の1つは、「ビヘイビア」(所作)をどうするか?
    3. 香りは記憶を刺激する 学習塾からの問い合わせも
    4. VRと連携して視覚・聴覚に「嗅覚」をプラスする構想も
    5. 香りの「本場」とも言える海外への展開は?

    ソニー以外はつくれない、光ディスクで培った技術を応用

    ──前編でも少し話をうかがいましたが、なぜ、いまソニーが「香り」なのでしょう? 改めて詳しく教えてください。藤田氏:ワクワクと感動の実現を考えたとき、実際に体験として求められるものはサプライズなのです。もちろん視覚や聴覚でも美しい映像と解像度の高いサウンドは大きな驚きとなると思います。一方で、何かもっと違う方法で驚き、感動を与えられないかと考え、まず香りに着目したわけです。 それは従来、ソニーがチャレンジしてきたエンターテインメントの延長線上にあるものだと思っています。単なるプロダクトではなく、ある種の「新しいライフスタイル」を提案するもの。たとえば、ウォークマンでは音楽を始めて外に持ち出しました。AIBOではペットが必ずしも生命体でなくてもよいことを始めて提示しました。日常で香りを持ち運び、いつでもどこでも、香りによって自分の気分を切り替えるという習慣は、まだありません。だからこそ、我々はチャレンジすることに価値があると考えているのです。──なるほど。そういう意味では、AROMASTICはソニーらしい製品といえるのですね。藤田氏:このSAPプログラムで生まれた製品は、SONYのロゴをあえて付けていない製品が多いのですが、私たちは「ロゴを付ける」ことを選んだのもそのためです。いまご説明したとおり、我々AROMASTICチームは、このプロダクトがソニーのチャレンジの延長線上にあると考えたからです。香りでエンターテインメントをやっていくことは、まさにソニーらしさに沿う挑戦の製品といえるでしょう。──ライフスタイルの提案を「新しい技術」を用いて行ってきた、という側面もソニーにはあると思うのですが、ちなみにこのAROMASTICには、どんな技術が採用されていますか?藤田氏:実はカートリッジに使われた微細構造が、ソニーの独自技術を応用したものです。この微細構造によって、香りを保持できます。カートリッジのパーツに、直径が数十~数百μmの「マイクロ流路」と呼ばれる独自の微細構造を形成しています。マイクロ流路は、血液検査用の医療機器にも使われます。私はアメリカでの留学先でもマイクロ流路技術を学んだことで、それを応用し、香りの保持とスムーズな芳香(通り道)を両立する、独自の微細構造を新開発しました。これにより、小さいカートリッジの中に複数の香りが、一定期間保持されながらも、それぞれ混ざらずに、ボタンプッシュと共に新鮮な状態で噴霧させることに成功しました。 さらに、このカートリッジは、3Dプリンターで製造されています。特許を取った独自の3Dプリンティング技術である「1次元規制液面光造形法」を活用し、カートリッジの内部構造をつくっています。このカートリッジのために、独自の量産用3Dプリンターも我々が一から開発しました。というのも他の大手メーカーではつくれないから我々が造るしかありません。すごく高精細な構造にしなければならず、かつ量産化する必要があるので、高速な3Dプリンターが求められます。この3Dプリンター自体も注目されており、先日その件で光栄にも世界を代表する3Dプリンタメーカーである3D Systems社の講演にも招かれました。──では、カートリッジの種類についても教えてください。藤田氏:カートリッジには用途やお好みに応じて、3種類のものを用意しています。毎日の生活に寄り添う「for Basic」、美しい日々へ誘う「for Beauty」、働く人のための「for Business」です。この中で男女共に「for Business」が1番売れています。価格が安い「for Basic」が一番売れると思っていたのですが、仕事の効率化に使えるというAROMASTICの利用法にピンと来られる方が多いようです。──男女比はどのくらいですか? ニールズヤード レメディーズ(AROMASTICの香りの監修を行う英国の老舗オーガニックコスメブランド)経由で知る方は、女性が多いですよね。藤田氏:渋谷ヒカリエでの販売を見る限りでは、少し女性が多いようです。おそらくソニーのWebサイト「First Flight」では男性のほうが多いと推測しています。またニールズヤードからのお客様は基本的に女性が中心ですね。AROMASTICの香料は、ニールズヤードと同じものを使っていますが、このエッセンシャルオイルを全部をそろえようとすると「for Beauty」なら3万円を超えます。こちらは5つ香りが入って2,780円(税別)です。たとえばROSE OTTOはは普通のアロマディフューザーの10回分だと約1万5,000円する大変高価な精油です。AROMASTICカートリッジが約1か月使えることを考えると、相当お買い得な製品だとお客様からもしばしばコメントを頂きます。

    普及の大きな課題の1つは、「ビヘイビア」(所作)をどうするか?

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    ──1つのカートリッジに5種類の香りが入っているのは、香りの効能に応じて用意しているということですか?藤田氏:実は香りの効能を謳うのは、薬事法の観点からはグレーなのです。そのため「何に効く」という表現は許されず、すごく曖昧な表現にせざるを得ません。ニールズヤードから香料の話をいただいたときも、それぞれにはテーマがあるのですが、効能については言えませんでした。ですから実際にデータをとって、集中力が何%アップするという宣伝文句を謳うことはできません。たとえば効能について書かれた本を、AROMASTICと同じ棚に置くこともできません。──ソニーは長く電化製品を取り扱ってきて、そちらの世界では「性能が何%向上した」といった数字や統計は必ず出てきますよね。ですので、なぜ数字で明記しないのかと、不思議に思っていたのです。そういう理由があったのですね。藤田氏:そうなんですよ。本当は表記できたら嬉しいのですが、現状では難しい。たとえば最近では、「香りが認知症の予防や改善に役立つ可能性がある」という研究結果が話題になりました。しかし、製品販売時にそれを直接宣伝することは法令上できません。──ほかに普及のハードルになるようなことはありますか? 発売から約3か月が経ちましたが、何か分かってきた課題などは?藤田氏:たとえば「所作」ですかね。日常では人前で香りを嗅ぐという行為がないため、他人の目が気になる方もいらっしゃいます。もちろんオフィスや自宅で使う分には問題ないのですが、外で使う際には「何だろう?」と他人から思われるかもしれない。どういう風に使えば、素敵なかっこいい所作になるのかを気にされる方はいます。これは今後の普及の鍵になるかもしれないと我々も認識しているところです。【次ページ】 VRと連携して視覚・聴覚に「嗅覚」をプラスする構想も

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