自律神経失調症の薬物治療について:市販薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、漢方薬など

1. 自律神経失調症に市販薬は効くのか

自律神経失調症の症状を改善する薬として、次のものが薬局・薬店・ドラッグストアでも販売されていて、処方箋なしで買えます。

ドリエル®やアンミナイト®といった製剤が睡眠を改善する市販薬です。もともとは抗アレルギー成分であるジフェンヒドラミンが主成分で、ジフェンヒドラミンの副作用としてあらわれる眠気を利用した薬です。

詳しくは「ドリエルなどの睡眠補助薬の成分はアレグラなどと同類の抗ヒスタミン薬! 効果と飲み合わせについて解説」もご覧下さい。

黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)や帰脾湯(キヒトウ)など、処方薬と同じ名前で販売されている製剤以外にも、アロパノール®(漢方薬の抑肝散(ヨクカンサン)と同じ生薬成分を含む)などのように、本来の漢方名称とは異なる名前をつけて発売されている市販薬もあります。

詳しくは「自律神経失調症と不眠に効く漢方薬」で解説しています。

アリナミンシリーズのアリナミン®EXプラスは、自律神経調整薬として処方薬にも使われている成分を含んでいます。肉体疲労、目の疲れ、筋肉痛、神経痛、手足のしびれなどを改善する効果が期待できます。

アリナミン®EXプラスはビタミンB1を中心として、ビタミンB6・B12、パントテン酸カルシウムの他、ビタミンEとガンマオリザノール(γ‐オリザノール)を含む製剤です。ビタミンEは血液循環の改善などが期待できますし、ガンマオリザノールは自律神経調整薬として処方薬(商品名:ハイゼット®など)の成分にもなっています。

キューピーコーワゴールドαは肉体疲労、虚弱体質、食欲不振などの改善が期待できます。

ビタミンB1・B2・B6、ニコチン酸アミド(ビタミンBの一種)、ビタミンC、ビタミンEのビタミン成分の他、滋養強壮の成分(エゾウコギ、オウギ、オキソアミヂン)、アミノ酸の一種のL-アルギニン、カフェイン(無水カフェイン)を含んでいます。

キューピーコーワゴールドαの成分に生薬の当帰(トウキ)を加えたのが「キューピーコーワゴールドα‐プラス」(但し、ニコチン酸アミドは含まず)です。当帰は血の巡りを改善する生薬で、自律神経失調症に対して処方される当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)などの構成生薬になっていることもあります。

2. 自律神経失調症に効く2種類の自律神経調整薬

自律神経調整薬は、自律神経のバランスを改善して、自律神経失調症のさまざまな症状を改善する薬です。トフィソパム(商品名:グランダキシン®など)、ガンマオリザノール(商品名:ハイゼット®など)などが代表的な自律神経調整薬です。詳しくは「病院で出される代表的な自律神経失調症の薬」で説明しています。

トフィソパムは、脳の視床下部という部位などにはたらきかけて、自律神経系のバランスを改善する薬です。頭痛、だるさ、動悸、発汗といった症状に対して処方されます。

抗不安薬や睡眠薬ではあらわれやすい、眠気や脱力感のような副作用が少ないという特徴があります。

ガンマオリザノール(γ-オリザノール)は米胚芽や米ぬかに多く含まれるポリフェノールの一種です。脳内物質であるノルアドレナリンのはたらきを高めることで、不安や抑うつなどの症状に効果を示します。更年期障害や過敏性腸症候群のような、自律神経失調症に関連した病気にも使われますし、コレステロール値を改善させる作用があるので高脂血症(脂質異常症)の治療に用いられることもあります。

3. 自律神経失調症に効く7種類の抗不安薬

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は自律神経失調症で出やすい不安などの症状を改善します。自律神経失調症で使われる抗不安薬として以下のものが挙げられます。

詳しくは「病院で出される代表的な自律神経失調症の薬」で説明しています。

エチゾラムは、飲んでから比較的速やかに効果があらわれて、体内での代謝が早い(体内に薬が残りにくい)抗不安薬です。

クロチアゼパムは、エチゾラムと似た化学構造をもつ薬です。不安、緊張、抑うつ、不眠といった症状の他、自律神経失調症によるめまいや肩こり、食欲不振などにも使われます。

ジアゼパムは、自律神経失調症による不安、緊張、抑うつなどに処方されます。筋肉のけいれんを和らげる効果もあります。

アルプラゾラムは、自律神経失調症や心身症で生じる不安、緊張、抑うつ、不眠、めまいなどの改善に処方されます。ベンゾジアゼピン系抗不安薬の中でも比較的速やかに効果があらわれる薬の一つです。

ブロマゼパムは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の中でも比較的高い抗不安作用などを持つ薬とされています。

不安、緊張、抑うつ、不眠のような症状の他、強迫症状や恐怖症状に対しても改善効果が期待できます。

ロラゼパムは、自律神経失調症における、不安や緊張症状、あるいは動悸などの症状に使われる薬です。他の薬との飲み合わせに関して問題が少なく、肝臓に負担がかかりづらいことから高齢者でも服用しやすいとされています。認知症周辺症状などの改善に処方される場合もあります。

ロフラゼプは、作用の持続時間が比較的長めのベンゾジアゼピン系抗不安薬です。不安、緊張、抑うつ、不眠などに対して使われる他、めまいや耳鳴りの改善目的で処方される場合もあります。

4. 自律神経失調症に効く4種類の睡眠薬

自律神経失調症の代表的な症状に不眠があり、睡眠薬で改善できます。詳しくは「病院で出される自律神経失調症の薬(睡眠薬、抗うつ薬)」で説明しています。

超短時間作用型の睡眠薬は、即効性があって、朝の起床後までは残りにくい性質があります。主な薬の例を挙げます。

短時間作用型の睡眠薬は、超短時間型よりは長く、そして中間型よりは短めに作用することから、自律神経失調症の症状に対しては入眠障害だけでなく中途覚醒に使われることもあります。主な薬の例を挙げます。

中間作用型睡眠薬は、短時間作用型より長く作用が持続するため、途中で目が覚めてしまう中途覚醒や早朝覚醒に向いた薬です。薬の例を挙げます。

自律神経失調症の薬物治療について:市販薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、漢方薬など

長時間作用型睡眠薬は、中途覚醒に向いた薬です。薬の例を挙げます。

5. 自律神経失調症に効く3種類の抗うつ薬

自律神経失調症でうつ(抑うつ)の症状が出ることがあり、抗うつ薬も重要な治療になります。自律神経失調症でよく使われる抗うつ薬は主に3種類に分類できます。

詳しくは「病院で出される自律神経失調症の薬(睡眠薬、抗うつ薬)」で説明しています。

SSRIは脳内物質のセロトニンなどのはたらきを改善し、自律神経失調症による憂うつな気分を和らげて意欲などを改善する薬です。主な薬の例を挙げます。

SNRIは、セロトニンやノルアドレナリンといった脳内物質のはたらきを改善し、自律神経失調症による憂うつな気分を和らげて意欲を改善する薬です。主な薬の例を挙げます。

NaSSAは、SNRIとは異なる作用によって、セロトニンやノルアドレナリンの働きを改善し、自律神経失調症によるうつ(抑うつ)、不安や不眠などを改善する薬です。

主な薬にミルタザピン(商品名:リフレックス®、レメロン®)があります。

6. 自律神経失調症に効く3種類のホルモン剤

自律神経失調症には、女性ホルモンのバランスが深く関わっているため、女性ホルモンをホルモン剤によって補うことで改善できる場合があります。

自律神経失調症に対して使われるホルモン剤は主に3種類あります。

詳しくは「病院で出される自律神経失調症の薬(ホルモン剤)」で説明しています。

エストロゲンは女性ホルモンの一種です。エストロゲンを主成分とする製剤は飲み薬以外にも、皮膚から薬剤を吸収させることで作用する経皮剤(貼り薬や塗り薬など)などがあり、自律神経失調症の多様な症状などに合わせて処方されます。薬の例を挙げます。

黄体ホルモンは女性ホルモンの一種です。黄体ホルモンが主成分の飲み薬の例を挙げます。

エストロゲンと黄体ホルモンを合わせた製剤も自律神経失調症に対して使われています。製剤例を挙げます。

7. 自律神経失調症に効く11の漢方薬

漢方薬は複数の症状を同時に改善しようとする薬で、自律神経失調症で複数の症状が出ている場合に適していることがあります。漢方薬の考え方と、自律神経失調症に使われる漢方薬の例を紹介します。

漢方の考え方では、患者個々の症状・体質などを「証(しょう)」という言葉であらわし、一般的にそれぞれの証に合わせた漢方薬を選択します。詳しくはコラム「漢方薬の選択は十人十色!?」で説明しています。

抑肝散(ヨクカンサン)は自律神経失調症による不眠などに用いられます。虚弱体質でいらいらし、怒っりぽいような証に適した薬です。

抑肝散に生薬の陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)を加えた抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)もあり、より体力が低下して胃腸が弱いなどの証に適した漢方薬となっています。

黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)は自律神経失調症による不眠などに対して処方されます。比較的体力があり、のぼせ気味でいらいらや頭痛、不安などがあるような証の人に適した漢方薬です。

構成生薬の黄芩(オウゴン)は鎮痛・鎮静などの作用や体温調整作用をもっていて、胃の不快感を改善する効果も期待できます。

帰脾湯(キヒトウ)は自律神経失調症による不眠症や貧血などに対して処方されます。虚弱体質で胃腸が弱く、貧血気味であったり不安を伴うような証の人に適した薬です。

帰脾湯に生薬の柴胡(サイコ)と山梔子(サンシシ)を加えたのが加味帰脾湯(カミキヒトウ)です。柴胡の抗ストレス作用などによって帰脾湯が適する証に比べて、より精神症状が強いような証に適するとされています。

酸棗仁湯(サンソウニントウ)は自律神経失調症で不眠に対しての効果が期待できます。心身の疲れがあり、不安や神経過敏であるような証の人に適しています。

加味逍遙散(カミショウヨウサン)は自律神経失調症、更年期障害の症状の他、冷え症、月経困難症、月経不順などに対して使われている薬です。

体力が中等度からやや虚弱気味(痩せ気味)で、冷えやすいなどの人に適した漢方薬です。不眠や不安、抑うつ傾向などの症状を改善し、副作用などの理由で抗うつ薬や抗不安薬を使いにくい自律神経失調症状にも処方されます。

当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は、自律神経失調症、更年期障害の症状の他、月経困難症、月経不順、不妊症などに対して効果が期待できる漢方薬です。女性ホルモンのバランスを改善する作用をあらわします。

加味逍遙散よりもさらに虚弱気味(痩せ気味)で、疲れやすく冷えやすいなどの証の人に適した漢方薬です。めまい、脱力感、頭痛、動悸などの症状に効果が期待できます。

桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)は、女性ホルモンへの作用をもっていて、更年期障害や自律神経失調症に伴う頭痛、めまいなどの症状の他、月経困難症、不妊症などに対して効果を発揮する漢方薬です。

当帰芍薬散とは逆に体質や体格が中等度からやや充実気味(比較的体格ががっしりしているなど)で血色が比較的良く、下腹部の痛みや肩こりなどがある証の人に適しています。

桂枝茯苓丸は女性だけでなく、肩こりなどのある男性に対しても使われることがあります。

柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)は自律神経失調症にともなう不眠症、神経症の他、動悸や肩こりの改善作用もあります。

比較的体力があり、動悸、不安やいらいら、耳鳴りなどがあるような証の人に効果が期待できる漢方薬です。

半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)は不安障害による喉のつかえが原因の、呼吸困難感や窒息感などを改善する効果が期待できます。

冷え症があり神経質で、喉に異物感があるような証の人に適した漢方薬です。

半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)は、自律神経失調症ではめまい感や頭の重さ、頭痛などのある場合に適しています。半夏白朮天麻湯は冷え症があり胃腸が虚弱気味な証の人に適した漢方薬です。

桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)は自律神経失調症で冷えやお腹の張り、腹痛などを伴うような証の人に適した漢方薬です。

8. 自律神経失調症の薬が効かないときはどうすればいいのか

自律神経失調症の診断を受けて、出された薬が効かないと感じたら、まずは最初の薬を処方したお医者さんに相談してください。

ほかの薬や心理療法に変えることを含めて、最初の薬が効かないという情報をふまえてより適した治療法を選べるようになります。心理療法については「自律神経失調症に心理療法は効果ある?」で説明しています。

自律神経失調症で使う薬の中には、急にやめると副作用が出やすくなるなどの注意があるものもあり、自分の判断で薬をやめたり、量を変えて飲んだりするのは危険です。気になる症状が現れたとき、効かないと感じたときはためらわず処方した医師に知らせることが大切です。

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